畳の効能 (五感満足で第六感を開発する畳)


1・視覚 眼にやさしく爽やかな色合いは、肌が先に感じている。
新しい畳の色は、新鮮でちょっぴり刺激の有るホワイトグリーンですが、少し色焼けしてくると黄色っぽく馴染んで来て、更に何年かすると茶色っぽくなり、すっかり落ち着いた色相になって「佗び」の境地に入り、放っておくと汚れも加わり黒っぽくなればもう「寂び」の境地、「どうぞお早目に表の張り替えをなさい」という事を表わしているのです。

最近の研究で、人の肌には「原基痕跡」という感覚器官が有り、色合いを敏感に感じている事が解って来ました。
お肌の目ともいえるこの器官は、人の前身の原始動物として海の中に住んでいた頃は、まだ目は無く全身の肌で色合いを光として吸収し感じるという役割を果たしていたようです。その後陸に上がってから進化して眼が発達したようです。

人間は、真っ暗闇の中でも部屋の周囲の色合いを肌が光として感じ、顕著な反応を示す事が実験で紹介されています。例えば刺激的な赤い色の真っ暗な部屋の中で、更に目隠しをしていても、3分間も居るとそわそわして汗をかきだし、脳波も興奮作用を表わします。 が、茶色っぽい黄色の色合いですと、全く逆で静かに落ち着き、脳波もアルファー波からベーター波になって、そのうちにシーター波となり、眠気を催すほどに安心感を表わすそうです。 特に日本人は黄色人種ですから、肌色と同じ反射率の色に最も安心するのでしょう。材木の木肌の色がやはり近い色相変化を表わしますね。

和室が落ち着くというのは、本能的にその反射率が感覚に作用していたからという事も有るのです。

2・嗅覚 匂いが良くて、なかなか消えないのは不思議!
いぐさの葉緑素は、収穫して乾燥する時に染める土と化学変化を起こして少し刺激の柔らかい、草いきれの匂いに変わり、チョット甘酸っぱい畳独特の香りとなります。
この匂いは徐々には薄くなるものの、何年経っても消えにくいのがとっても不思議な事なのです。

青物の匂いは放っておけば1週間もすると大抵は消えてしまいますが、いぐさの匂いがどうして消えないのか、は未だ解明されておりません。
いぐさの染め土は、陶磁器用の白土の土に近い珪素の長石成分なので、水に良くとけて乳濁しエマルジョン状態に近くなり、いぐさの茎から水分を吸い出して乾燥を早める働きが有るのですが、同時に葉緑素の匂い成分を閉じこめる働きもしているのかもしれません。
フィトンチッドは森林浴効果により、アロマテラピーを活発にしてくれますので気持ちがいいのは当り前でしょう。

3・触覚 触った時のあの感触は、人肌のやさしさ!
畳の上で転んでも、まず大怪我をする事はないでしょう。また、やくざな男が死ぬ時は「せめてたたみの上で死にたい」とか、まあだれでも死ぬ時は、家の畳の上で最後を迎えたいという願望は多い事でしょう。
柔道にタタミマットを使うのは、受け身の安全であり、技の切れもそのクッション性と、表面の適度な柔らかさにもあると思います。弓道の弓矢の真と受けとか、剣道で刀の試し切りにも藁束やいぐさのゴザを巻いて使います。これらは相当なショックを吸収する力が有るからに違いありません。

その上、表面のいぐさ表の繊細なきめ細かさと感触に新鮮な郷愁を覚えるのは何故でしょうか?
それは人の肌のようにソフトでやさしく、ぬくもりの温かさと、吸湿して少しひんやりとした潤いが感じられるからではないでしょうか。 この安心感が人が一番にほっとする感触の一つなのかもしれません。そして室内の大量の湿気(水分)を自然に調節するという、すごい働きが畳のもっとも大きな特徴ではないかと思います。

いぐさ表も藁床も建材畳床も、普通の状態で13%の湿度が含まれている時が内装建材として最適な環境に有るといわれます。

湿度8%ではカラカラの乾燥し過ぎ状態であり、ポキリと折れ易く表皮の強度も弱くなりがちです。また、20%を超える湿気はかびの生える条件を作りやすくなり、55%以上になるとダニの繁殖条件が出来るので要注意ですが、それも温度と通風次第で左右されます。

畳は相当な極限状態にならないと、そう簡単にはかびが生える物ではない筈なのですが、それは余分な湿気などの条件を、空気の代わりにどんどんタタミ込んでいってしまうからです。
かびが生えてくるのは、高気密の上に風通しが悪くて、湿気を吐き出す事が出来ない環境のままに捨て置かれるからなのです。

4・聴覚 畳の上での衣擦れの音は、何とも言えぬ静寂さの風情が有ります。
和室の静かさは、あらゆる音を吸収してくれる空気層を持つ畳の気付かない一面です。
マンションライフでは、フローリングルームのお子様の足音など階下へ伝わる響きや雑音で悩んでおられますので、手軽な遮音材として置き畳の御試用を薦めて見ている所です。きっとその遮音効果が安らぎをもたらしてくれる事でしょう。

和服の着替えは絶対に畳の上に限るようですが、静電気が起きない事で埃っぽくならないのも、その理由の最たるものでしょうか。

5・味覚 いぐさが「健康食品」になったのです!
いぐさの利尿剤としての薬功は、江戸時代からも認識されて「和漢三才図絵」にも記述が有り、今も漢方薬「燈芯草」として売られています。
私もS53年に岡山県早島町の資料館で目にして驚き、コピーを戴いてご紹介に努めたものでした。
6年ほど前に熊本県のい草産地で畳表の経糸を作っている、稲田さんが知恵と勇気を出して食品開発をされ、見事成功しました。成分分析をしてその豊富な繊維素と栄養分に着目し、いぐさを臼で細かく挽いて粉末にする事で、色々な食品に和えて使えるようにしたのです。
郷土土産「いぐさ饅頭」からはじまって、村起こしへと広げ「いぐさ懐石料理」にまでも育っています。何れ家庭料理にまで使われるようになる事でしょう。

人間の五感を満足させる事が出来れば、きっと第六感が働いて、新しいひらめきが生まれるきっかけにもなろうという事ではないでしょうか。


「畳と女房は新しいほうがいい」

こんな諺が有りますが、私は「古畳と、古女房は化粧替えがいい」と言うように読み替えていただくと、その含みと本当の意味が解ると申し上げています。

新畳はたしかに色も匂いも新鮮ですが、まだその家に馴染んでいません。何年か使っていれば落ち着き、くせも解ってきますので、色あせてきたら表と縁だけを張り替えれば、その香しい新鮮さは同じ様に味わえるのです。 しかも下地の畳床はゆかにも馴染み落ち着いてきているから、そこの生活に殆ど合っている筈ですし、少しの手直しで隙間やむらも直せますから、ますますぴったりします。

もうお解りですか?色々な畳の特色を知っていただいた方にはピンと来た事でしょう。 女房も時々の化粧替えで、新婚時代の雰囲気に戻れ、しかも’あうんの呼吸’と’目で物を言う’事までも会得してるのですから、取り替えるなんて罰当たりなとんでもない事なんですよ!

四季折々の風情を、自然素材の上で培って来た日本人の生活感性を更に高め、世界に広めて行きたいものです。

畳アドバイザー、Junc−Art KESAJI 荒 井 将 佳 


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