日本の畳文化の役割は何でしょうか?

 日本勤労者住宅協会機関誌 掲載記事より

有機栽培の畳材料、丸いぐさと三角いぐさの畳表
以前本誌で、今井俊博先生が取り上げてくださった、畳表産地の八代の農家の話題は、覚えておいででしょうか?
3年半ほど前になりますが、御一緒にお伺いした家で、床下に炭を使ったり様々にご自宅の新築で環境対策を施した方がおり、いぐさ栽培には人一倍有機栽培と減農薬にも関心を持ち、実践しておられました。
このほどその方から3年振りの嬉しいご連絡で、より自然農法に近い有機栽培、減農薬のいぐさで自信作が出来たとのご様子を戴きました。
それまでも、自然農法に目覚め始めた業者と、少しだけ有機肥料を入れたり農薬を減らしただけの製品を有機栽培無農薬と称して、急に彼方此方で作り始めた農家とが手を結ぶ姿など報道され、それらが市場でも商品として広がりつつある中で、更に3年間もじっと我慢をしてかたくなに実践して来られたのです。

いぐさの栽培は日本の農業の縮図でありモデルともなる物です。 いぐさ科イグサ属の「イ」丸いは、8月から苗作りを畑で雑草管理しながら3ヶ月育て、11月に掘り起こして苗分けをし、きれいな水を十分に張って氷が張るほどの12月の寒中に、堆肥などの元肥えを充分に入れて耕した田圃へ植え付け、雑草管理も絶えず見回り農薬を施して、春先までに根を十分に張らせてから増やしてゆきます。
いぐさには他に類を見ないほどに、沢山の肥料(窒素、カリと燐酸は少し)を与えて発芽と充実と成長を促進し、5月には田圃一杯に縄網を張り巡らせて風雨による倒伏を防止し、いぐさの頭を刈って茎から花が飛び出て咲くのを遅らせて防いでおき、芯食い虫などの害虫の発生に気を使いながら、農薬を撒きます。
6月の大気の湿気の働きを借りて、一挙に背丈ほどに成長させてから、ようやく7月の梅雨明けを待っていっせいに根元から丁寧に刈り取るのですが、早朝から深夜にも及ぶ過酷な農作業のうえ、すぐに間髪を入れず染め土に漬けて、天日干し叉は乾燥機に入れボイラー乾燥させてから、保存するという重労働なのです。
そして直ぐに次の年の畑苗の準備をしてからほっと一息、植え付けから8ヶ月、苗作りからは1年掛かりの農作業がやっと終わります。

「サンカクイ」はかやつり草科のホタルイ属で、三角形の茎を半分に割って干すと丸まって渇き、手織機で織れば青表(琉球表)になりますが、染め土は使いませんし、5月の植え付けで9月の刈取となります。丸いに比べ7倍ぐらいの摩擦強度が有って、縁ナシタタミとしてラフで質素な雰囲気に、最近人気が出ています。色を揃えるために今までは「硫黄蒸し」晒し加工をしていた大分県の産地が、健康志向に応えてことしはやめたところが多いようで、自然志向となり喜ばしい事です。

さてそれからいぐさの長さをそろえる「い抜き」をして、色合いを揃えシミ傷を目で見て一本づつ抜き取り、畳表の製造作業に取り掛かります。丁度今頃(10月)がその畳表生産の最盛期となります。

いぐさの和紙が出来ましたよ!
藁(わら)半紙なら御存じの方は多いでしょうが、いぐさの和紙はまだご存じの方は少ないでしょう。
50%いぐさを三椏、こうぞに混ぜたものはもう4ー5年前から出来ていましたが、小生がその生産者と出会ったのが3年前で、いぐさ100%の物が出来ないかと聞いたら、多分出来ないでしょうとのことでしたが「多分」なら挑戦して見てほしいと我が儘を言って、何回かの試作、失敗を繰り返したら出来てしまったのです。
我が儘は言ってみる物だと思いました。

その方は熊本県水俣市で、竹などの珍しい和紙を漉いている「浮浪雲工房」の金刺順平さんで、この出会いを作ってくださったのも、今井俊博先生でした。
最初、半紙版から名刺用紙を一枚漉きでも作って頂き、大変珍しく腰の有る佗び味の風合いが手漉き和紙の新しい発見でもありました。それから更に、見ただけでいぐさ和紙だと解るようにと、いぐさそのものを一緒に漉き込んでいただくようお願いし、再挑戦して見事に丸のままを中に漉き込んだ大判和紙が出来ました。
それを繭玉状に丸く漉きあげたり、筒型に唐傘のような不思議な形にしたりも出来、照明器具の傘などに応用商品化されました。最近では八代産地の千丁町で、いぐさ和紙の町作りを活性化のヒントにしてはどうかと、彼の力を借りて検討に入り始めています。
そしてお隣の鹿児島県にも色々な草木を使ったり、畳表の端切れを利用して様々な和紙に漉き、うちわに貼ったり糸に紡いでネクタイを作ったりする方も現われました。
それから私が、アース研究会という異業種交流会でいぐさ和紙を紹介した所、機械漉きで同じ様に出来ない物かとの御提案を頂き、挑戦してくれるメーカーにも出会いご相談を進めております。
そのアース研究会では、以前から食品として紹介していたいぐさの粉末を、工業用に利用する方法をと智慧を集め、研究開発を進めている所で、意外な性質発見にも繋がりそうですから楽しみにしています。
畳はアートに出来ない物か?
畳はいうまでもなく生活用品であって、どんなに素敵な作品であっても、芸術品としての評価を得られる物ではありませんでした。
しかし、縁の色模様などは身分制度の名残も有って、色々の華やかさや格式高い紋様など様々な物があり、好みに応じて使う事が出来ますし、今はもう数千種類にも及ぶ色柄の縁が作られるほどになっています。
畳表の方は、最近の技術革新による、製造方法による柄出しや、いぐさ染色法によって、カラー革命ともいえる淡い色合いなどを日光堅牢殿高い物にする事が出来、普通の畳として取り入れて楽しむ事も出来るようになりました。
畳床の方はもう早くから稲藁だけではなく、色々な素材が使われるようになっていましたから、様々な要求に合わせやすくなっており、形や硬さも自由に作れると思います。

畳は、和室の床にのみ敷かれる物という観念が、日本の生活文化として根付いてしまっている為に、洋間には合わないとか古臭いとか弱々しいという感じがしたり、デザイン的にも完成度が高すぎて新感覚が出せないなど、色々な隘路が有って嫌われ物になってしまう流れの方が強かったと思います。
ましてや床のみならず、壁や天井の飾り物、或いは内装材料にするなどは、思いもよらなかったかもしれません。今その辺までは色々と試行錯誤を繰返して、製品化された物もあれこれと出されております。

例えば、畳尽くしの部屋にしようとおもえば、襖や壁と天井に「いぐさクロス」「いぐさ和紙」などを張り、「畳工芸品」の床飾りや衝立に壁飾り、「い草クッション、座布団」「箱畳」「畳椅子」に座り、「いぐさスクリーン」や「ランチョンマット」「コースター」など色々な畳と藁やいぐさの「民芸品」に囲まれてのお食事と団欒、「いぐさ和紙」のランプシェードのスタンドのほの明かりの元で、「畳ベッド」に暑い時は「寝ゴザ」を敷いて寝る、といった具合はいかがなものでしょうか?。
第六感の開発は 六つかしい(難しい)とはどんな意味?
論語など中国の古書に「五倫」「五常」「五徳」といった言葉が出て来ますが「地、水、火、風、空」とか「仁、義、礼、智、信」それと「温、良、恭、倹、譲」のことを意味する言葉だそうです。

そして二宮尊徳の教えの中に出てくる、「神道の本旨は、開びゃく(古事記の「天土初発(あめつちのはじめ)の時−天地の開け初めの時)の大道を行ふにあり」(語録の十一)の中で、「開びゃくの大道先づ行われ、十分に事足るに隋(したが)ひてより後、世情に六かしき事(むつかしきこと)も出来るなり、其時にこそ儒も入用、仏も入用なれ、これ誠に疑がひなき道理なり。例えば未だ嫁の無き時に夫婦喧嘩あるべからず、未だ子幼少なるに、親子喧嘩あるべからず、嫁有りて後に夫婦喧嘩あり、子成長して後に親子喧嘩有るなり、此時に至てこそ、五倫五常も悟道治心も、入用となるなれ」と、道理を説いています。
六かしき事、六つか敷こと、こういった言葉の使われ方は日本の古い書物に時々出て来るようですが、どうして六の字を当てるのかが、尊徳さんの教えから解ったような気が致しました。

ということは、「豊芦原を瑞穂の国、安国と治め、日本の国を開いた、天照らす大御神の足跡の有る所が、真の神道(神様の教え)であるという道理を知ってこそ、後に入って来た、儒道(儒教)、仏道(仏教)も入用になるという理(ことわり)」を説いているように、人間の道として最も大切な事は、五感の活用だけに留まることなく、六つめの感、即ちインシュピレーションとか第六感を開発し、人間だけが持ちうる「感性」を正しく生かして働かせる事が必要である、という意味が含みとして有るのではないかと思います。
そこで前に書き述べた畳の特性を考え合わせると、(畳の効能参照)
★五感満足で感性を開発する畳
1.視覚 2.嗅覚 3.触覚 4.聴覚 5.味覚 6.感性
つまり、人間は五感と感性を正しく活用出来れば、必ず第六感が働いて新しいひらめきが生まれ、どんな困難をも克服する道が開発される筈である。 そしてそれは、畳の特性活用が人の感性開発の近道にもなろう、という事ではないでしょうか?。
情報の流通をするのが商人の役割
畳の文化は、庶民の生活に溶けこんでから明治以来やっと100年に近づいたに過ぎず、日本の生活文化として残せるかどうかは今瀬戸際に立っております。
江戸時代のリサイクル型文化生活に培われた、茶道、華道、香道、柔道など感性を高めて心を極めようとする道には、畳の上での作法が決められている、立派な日本文化です。
アジアのモンスーン気候の恩恵を最大限に受けて、気候風土に根差して生まれた日本の畳文化をきちんと継承したうえで、其のモンスーン(季節風)に乗せて世界中に情報発信のお返しをすべき立場と認識し、業界の商人道に邁進して行きたいと思います。
1998.11 荒井将佳 


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